遺言とは、死後の法律関係を定めるための最終意思の表示のことです。
人は、死後の自分の財産の行方についても、その意思で自由に決定することができます(
遺言自由の原則)。
そして、遺言は、遺言者の最終意思を尊重して、遺言者の死後の法律関係を遺言で定められたとおりに実現することを法的に保障する制度です。
遺言の方式には、
普通方式および
特別方式があります。普通方式には、
自筆証書遺言、
公正証書遺言、
秘密証書遺言があり、特別方式には、
死亡危急者遺言、伝染病隔離者遺言、在船者遺言、船舶遭難者遺言あります。
- 遺言の厳格な要式行為性・紛争予防機能
遺言は、民法に定める方式に従わなければならない要式行為であり、方式違反の遺言は全部または一部が無効となります。
また、遺言で財産処分を定める場合は、遺留分に配慮することも大切です。遺留分を侵害する被相続人の財産処分が直ちに無効となるわけではなく、遺留分権利者が被相続人の財産処分を減殺請求できるに過ぎませんし、必ずしも遺留分権利者が減殺請求権を行使するとは限りません。しかし、相続に伴う紛争予防の観点から、やむを得ない事情がある場合を除き、徒に紛争を誘発するような遺言は避けた方が良いと考えます。
※ |
遺留分とは、相続の場合に被相続人の兄弟姉妹以外の相続人に対して保障された相続財産の一定割合(直系尊属のみが相続人の場合:3分の1、それ以外の場合:2分の1)のことです。 |
- 遺言書作成の必要性
次の@〜Iのような場合は、特に遺言書を作成しておくことをお勧めします。また、併せて遺言執行者を指定しておくこともお勧めします。
@ |
法定相続分と異なる割合・形で遺産を残したいとき。 |
A |
子供がいないとき。 |
B |
相続人間の折り合いが悪く、遺産問題で揉めることが予想されるとき。 |
C |
法定相続人がいないとき。 |
D |
法定相続人以外に遺産を残したいとき。 |
E |
法定相続人のうち特定の者に事業を譲りたいとき。 |
F |
法定相続人の中に未成年者や行方不明者など遺産分割協議が不能な者がいるとき。 |
G |
内縁関係の者(婚姻届を出していない事実婚の夫婦)に遺産を残したいとき。 |
H |
先妻の子と後妻の子がいるとき。 |
I |
認知していない子供を認知し、遺産を残したいとき。 |
※ |
将来の円滑な遺産相続を実現するためには、多少費用をかけてでも生前に将来の相続対策を講じておくべきです。当然のことながら、将来の相続対策は生前にしかできません。 |
※ |
例えば、遺産分割協議による遺産相続において、相続人のうち1人でも協議を拒む者(協議不能な者)がいる場合は、遺産分割協議による遺産相続は実現できないことになります。 |
- 遺言能力
満15歳に達した者は、遺言をすることができます。 遺言をするには遺言能力(意思能力)が必要とされますが、行為能力までは必要とされません。
遺言能力とは、自己の行う遺言の意味内容・法的効果を理解・判断する能力のことです。
遺言者に遺言能力があるか否かは、遺言時における遺言者の状態に応じて判断されます。したがって、遺言者が成年被後見人、被保佐人、被補助人であっても、遺言時に遺言能力があれば、有効に遺言をすることができます。つまり、遺言は、遺言者の最終意思を尊重する制度であるため、その性質上、本人保護規定(保護者の代理権・同意権)は適用されません。ただし、成年被後見人が遺言をするには、事理を弁識する能力を一時回復した時において、医師2人以上の立会いが必要となります。
- 遺言できる行為
遺言できる行為は、民法上、次の@〜Iの10項目に限定されています。
なお、これらの項目以外のことが遺言書に記載されていた場合でも、法的強制力がないだけであって、遺言が無効となるわけではありません。
@ |
財産処分 |
A |
相続人の廃除または廃除の取り消し |
B |
認知 |
C |
後見人および後見監督人の指定 |
D |
相続分の指定または指定の委託 |
E |
遺産分割方法の指定または指定の委託 |
F |
遺産分割の禁止 |
G |
相続人相互の担保責任の指定 |
H |
遺言執行者の指定または指定の委託 |
I |
遺留分減殺方法の指定 |
※ |
上記は、あくまで民法上の話です。 |
- 遺言執行者
遺言執行者とは、遺言による指定や家庭裁判所による選任に基づき、遺言執行の目的のために特に選任され、遺言の内容を実現する者のことです。
遺言執行者には、未成年者および破産者を除き、誰でもなることができます。そして、相続人も遺言執行者になることができますが、遺言の内容が相続人間に利害の対立を生じさせるものとなる場合は、相続人に遺言を執行させることは好ましくないため、司法書士などの第三者を遺言執行者として指定・選任の上、遺言執行を任せる方が無難です。
なお、遺言に@認知、A相続人の廃除または廃除の取り消しの内容がある場合は、遺言執行者を指定・選任の上、遺言執行者による遺言執行が必要となります。